医療法人 順桜会 桜台マタニティクリニック

vol.24 陣痛関連ホルモン(オキシトシン)

院長から一言

皆さんは、厚木の児童虐待事件について覚えていますか?母親が家を出て、残された父親もしばらくして育児放棄をして帰らなくなり、家に一人残された幼児は餓死して、その後何年も部屋に放置されたために白骨化してしまったという痛ましい事件です。先日ニュースで被告が懲役9年の判決を不服として、控訴していたそうですが、棄却になり刑が確定したと知りました。この事件以外にも時々児童虐待のニュースは取り上げられ、聞く度に、可哀想な子供達のことを考えると憤りを感じます。そんな中、先日医師会の講演で里親制度の話を伺う機会があったので、このようなニュースを昨今よく耳にすることから、聴講してきました。
そこで、知ったことは、このような大きな事件にならなくても最近児童虐待に関連した通報や相談が増加傾向にあるとのことです。どこまでが虐待でどこまでが躾なのかはとても難しい問題だと思います。私も自分の子供に過去に強く叱って叩いたこともあります。振り返ると今なら虐待って言われてしまうのかな?なんて冗談で家内に話すこともあります。子育てはいらいらすることも多く、どんな方でも悩みながら子育てをしているものです。昔「子供叱るな来た道だから、年寄りしかるな行く道だから」と言う格言を私の親に聞いたことがあります(そう教えながら親は私をよく叱り叩いてはいましたが……)。また以前呼んだ本では「子供を叱ってはいけない。頭にくることがあったらそれは神様が自分に足りないところを教えてくれているのだから」、「神様が子育てを通して自分を成長させてくれていると思いなさい」と書いてありました。どちらも、子育てをほぼ終えた自分にはしみじみ納得のいく言葉と思います。
さて、先ほどの講演の話に戻りますが、どうしても育児に不適切な家庭の場合、お子さんは児童相談所に預けられるようです。でも、それはそれで、子供には必ずしも適切な環境ではないようです。それは児童相談所の環境が悪いという意味ではなく、いくら児童相談所の方が親身に対応してくれていても職員と子供が1対1の関係でないために子供達に遠慮や寂しさが生じ、真の信頼関係を職員の方々と結ぶのが必ずしも容易でないことがあるからだそうです。里親制度はうまくいけば、そのような子供の気持ちをカバーできうる良い制度ではあるようですが、そこまでの関係を子供と里親の方の間で築き上げるのは里親になる方もそれなりの勉強や苦労があるようです。
色々と複雑な内容を含んでいる問題ですが、私達医療従事者、特に出産に携わっている我々が皆さんの育児のスムーズなスタートのお手伝いをすることもこの問題の解決の一つになっていくのかなと思っております。育児に完璧なんてありません。どんな方も悩みながら、時に手探り状態でしているのが育児だと思います。でも、子供達はお父さん、お母さんが大好きです。このことを忘れないで育児をしていけば、どんな育児にも間違いはないと私は思っています。そして、悩みがあったら一人で悩まず、色々な人に相談することも大切と思います。産後直後は不安が多いものです。出産直後の心配事や悩み事があったら、是非ご相談いただければと思います。当院で産まれた赤ちゃん皆が幸せになれるようにお手伝いできればと思っています。

最近の話題―陣痛関連ホルモン(オキシトシン)

陣痛はどのように始まるかというのは意外かもしれませんが、色々な説があるものの人ではまだはっきりと解明されていません。よく満月や新月の時に陣痛がくるなどと言われますが、実際にはどうも余り関係ないようです。皆さんに妊娠後期につけて頂いている胎動表も正確につけると胎動が僅かに減少してから2週間後に陣痛が来るなどという報告があったり、胎盤からでるホルモンを測ったりすると陣痛のくる時期がわかるなどの報告は過去にもありましたが、人ではまだ陣痛のくる時期が確実にわかる方法はありません。しかし医学的には陣痛発来にはオキシトシンというホルモンが関連しているのは間違いがありません。これは鼻の奥にある下垂体という脳の一部から分泌されるホルモンで、診療でも分娩誘発や分娩促進をする時に使うお薬にもなっています。しかし、このオキシトシンが分泌されるから陣痛が来るのではありません。それはこのホルモンは妊娠の早い時期からその分泌は増えているからです。ではどのようにオキシトシンが陣痛に関与するか、それは陣痛が来るタイミングでオキシトシンに対する子宮の感受性が何等かの理由で上がることによって子宮収縮が強まるとされています。そして、その感受性の上昇にはお腹の中の赤ちゃんのホルモンも関係しているのではないかとも考えられています。「赤ちゃんが産まれたい時に陣痛が来るんだよ」なんて言うお母さんや助産師さんがいますが、医学的にもあながち間違いではないかもしれません。このオキシトシンというホルモンは陣痛を起こす作用だけでなく、産後はおっぱいの分泌にも作用することがわかっています。そんな中、人では扁桃体という脳の深いところにある部分に作用して、信頼などの人間関係にも影響を与えているということが最近の研究で解ってきました。自閉症という病気がありますが、自閉症のお子さんではこのオキシトシンのホルモンが他のお子さんと比較して僅かに低いという報告もあることから、このホルモンと自閉症の症状との間には何かが関係があるのではないかとされています。そのようなことから近年では自閉症のお子さんにオキシトシンを投与すると症状が改善するという研究発表もされてきています。自閉症は教育以外なかなか医学的に良い治療方法がないとされていたので、研究は始まったばかりではありますが、良い臨床結果がでることが期待されています。

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