vol.29 計画分娩
計画分娩
当院では医学的に適応がない限り自然に陣痛がくるのを41週前後まで待機している方針としています。これは分娩誘発を行う時に使用する薬剤が赤ちゃんに危険だからではなく、子宮口(頸管)が成熟するのを待っていた方が分娩が順調に進む方が多いと考えているからです。
しかし、2019年8月に出たアメリカの産婦人科学会の公式医学雑誌(Obstetrics and Gynecology)で興味深い論文が発表されました。そのタイトルは「リスクのない経産婦での待機的管理(自然陣痛を待つ管理)と39週代での計画分娩との比較」というものです(Obstet Gynecol 2019;134:282-7)。この論文はリスクのない経産婦3703名で待機的分娩と計画分娩でどちらの方が分娩や新生児にリスクが少なかったかというものです。この論文での結果は待機的管理と計画分娩では多くの合併症に差はなかったものの、39週代で計画分娩を行った方が待機的管理より帝王切開になる率が0.6倍、新生児の合併症の発生総数で0.57倍少なかったということでした(ただし、新生児合併症については合併症発生総数でのデータだけでの差で、呼吸障害など個々の細かい合併症の発生率の分析では差がありませんでした)。これだけみると計画分娩の方が安全と思われがちですが、これはそもそも新生児合併症や帝王切開となる率が少ない経産婦さんのみに限られた研究なので、この結果からだけで計画分娩が良いと理解するには注意が必要です。したがって今後も当院では子宮口の状態が分娩に適した時まで医学的適応がない限り誘発を予定しないとする方針には変更はありませんが、分娩誘発が必ずしも危険ではないということの一つの証明になる論文と思いますので、誘発の説明を医師より受けた妊婦さんも安心して頂けるのではないかと思います。
さて、では何故予定日過ぎて妊娠41週頃になると分娩誘発を考えていかなければならないのでしょうか。その一つの理由として胎盤の機能が悪くなり、結果として帝王切開の率が上がってくることが挙げられます。胎盤は赤ちゃんが生まれた後は必要のない臓器ですから、予定日前後になると一部の赤ちゃんではこの胎盤の機能が悪くなってくる場合があります。妊娠42週を過ぎると過期産といわれ異常妊娠とされるのもそのためです。胎盤の機能が悪くなるとお母さんから赤ちゃんへの酸素や栄養の運搬がうまくいかなくなったり、羊水が減ってしまったりします。このようなことが起こると陣痛がない時は元気でいられても分娩の時に子宮収縮が起こった際には、へその緒が圧迫されたり、赤ちゃんへの酸素運搬が更に減ったりすることにより仮死のサインが出やすくなります。したがって、当院でも妊娠41週前後になった場合や41週前でも健診時の超音波で赤ちゃんの羊水が少なくなった場合には誘発を検討することにしています。
いずれにしても薬剤を使って分娩を誘発しなければならないと判断した場合には書面で書いたもので説明をさせて頂いて、妊婦さんやご主人にご理解頂いた上でしか使用しませんので、ご安心下さい。