医療法人 順桜会 桜台マタニティクリニック

vol.23 双子(双胎妊娠)

院長から一言

先日、便の話と言っても腸内細菌の話を聞いてきました。テレビなどに時々出演されているので、ご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、理化学研究所の辨野(べんの)先生という先生のご講演です。今回はその一部を紹介します。テレビなどでは細菌をよく善玉菌とか悪玉菌なんて分けて言いますよね。腸の中で言えば乳酸菌は善玉菌で大腸菌は悪玉菌、だから「乳酸菌が多くて大腸菌が少ないと健康な腸」なんて考えていた方も多いのではないでしょうか?しかし、これが必ずしもそうではありません。以前より腸内細菌は菌のバランスが大切であるということがわかっていました。しかし、腸内細菌のバランスと一言で言っても実に複雑で、先生のお話によるとこの腸の菌のバランスや構成は住んでいる場所や性別、年齢などによって全然違うそうです。また、同じ菌でも、その人の食生活習慣などによっても、その菌のもっている色々な能力や食物を分解できる力が違ってくるそうです。しかも、この腸内細菌のバランスや構成が何かしらの理由で変化すると、今まで働いた菌の能力や増殖の仕方にも変化が起こることがあるとのことです。例えば腸にとって良くも悪くも働かない菌と腸に良い働きをしている菌がいたとします。何等かの理由で腸の健康には無関係な菌だけがある環境の変化によって居なくなってしまった場合、一見腸の健康には関係ないと思われがちですが、実はこの良い菌はこの腸の健康に無関係な菌がいるおかげで腸内で増殖できる菌だったりする場合があり、この腸の健康には無関係な菌がいなくなることによって良い菌も一緒になって徐々に消えていくなんてこともあるそうです。逆に今まで腸に居なかった菌が入ってきたがために良い菌が増殖できなくなる場合もあるそうで、この腸内細菌のバランスの維持というのは菌がお互いに解らないところで影響し合っていることもあり、実に複雑なようです。しかも、現代でもまだ同定できない腸内細菌が居るそうで、新しい菌の発見が今も続いているそうです。辨野先生は何千人もの便を採取して、この腸内細菌と健康について長年研究をされています。実に地味な研究ではありますが、それを一筋にされている研究者の姿勢には頭が下がります。このお話を聞いて普段の健康はまず食事からという事を改めて感じました。産まれた赤ちゃんへの母乳も同様です。皆さんのバランスの良い食事が良い母乳となります。それから辨野先生は「快便は何より大切である」ともおっしゃっていました。妊娠中、授乳期は便秘がちになります。食事に気をつけて便秘にも注意して下さい。

産科ワンポイント解説―双子(双胎妊娠)

少し昔になりますが、金さん銀さんという双子のお婆さんがテレビで良く出てましたね。それ以外でも街やテレビで見かける双子ちゃんは顔も同じで、同じ服なんか着ていると実に見ていてかわいらしいものです。よく皆さんは顔が同じなのは一卵性の双子、性別が違っていたり顔が似ていたりしなければ二卵性の双子なんて区別されますね。確かにこの区別大まかには間違ってはいません。一卵性では1つの受精卵から2人の身体が作られるので性別も一緒、顔も大変似てきます。でも実はこの区別の仕方、あまり産婦人科医はしないのはご存じでしょうか?産婦人科医は胎盤の数によって双子を区別していきます。胎盤が1つの双子を一絨毛膜(じゅうもうまく)性の双子、胎盤が二つの双子を二絨毛膜性の双子と言って区別をします。妊娠が成立した時に排卵が1つだったか2つだったかはなかなかわかりませんが、一絨毛膜性か二絨毛膜性かは妊娠の早い時期であれば超音波で区別することができます。それでも一卵性が一絨毛膜性で二卵性が二絨毛膜性ならこんな面倒な区別はしないのですが、一卵性の双子では一絨毛膜性の場合と二絨毛膜性の場合とがあります。つまり一絨毛膜性の双子なら一卵性は間違いないのですが、二絨毛膜の場合は一卵性か二卵性かが区別ができないので、産婦人科医は混乱を避けるために一卵性、二卵性という表現は余り使わないのです。でも胎盤が1個か2個かなんてそんなに重要なことなの?と思われると思います。実はこれは双子を診る上で産婦人科医はものすごく重要にします。それは胎盤が1個か2個かでは赤ちゃんの危険が全然違うからです。1つの胎盤を2人の赤ちゃんで使うとなると、妊娠中に胎盤の中で2人の赤ちゃんの血液が行き来する場合があります。するとどちらかの赤ちゃんの心臓や腎臓に負担がかかってしまい、1人の赤ちゃんの心臓が大きくなってしまったり、羊水がものすごく多くなったりすることがあります。そしてその場合、もう1人の赤ちゃんは羊水の多い赤ちゃんへ血液が流れすぎることになり成長しなくなったりすることがあります。このようなことが長く続くと、どちらかの赤ちゃんがお腹の中で亡くなってしまったり、脳に血液が十分送れなくなって重度の障害が残ってしまったりすることがあります。この病気のことを双胎間輸血症候群と言いますが、この合併症が胎盤1つの双子ちゃんでは起こることがあるので、より厳重な注意が必要になるのです。勿論、胎盤2個の双子ちゃんでも本来1人用の人間の子宮ですから双子では子宮が大きくなりすぎるのでので、早産のリスクも高くなり、お母さんの負担も大きくなります。このため1人の赤ちゃんの妊娠の時よりお母さんの産科合併症の頻度も高くなります。元気に産まれてくれたらとても可愛い双子ちゃんですが、妊娠中は注意しなければいけないことも沢山あるのです。金さん銀さんは今から100年以上も前の今ほど医学が発達していない時代に双子で元気に産まれて、あんなに長生きしたのですから、とても幸運な双子の姉妹だったと思います。なお、当院では説明させていただいた理由により妊娠の初期に双子とわかったら周産期センターへご紹介させていただいております。

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